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裁判も今日で

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第六回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

「裁判ももう今日で三日目だぞ、いゝ加減になかなほりをしたらどうだ」山ねこが、すこし心配そうに、それでもむりに威張つて言ひますと、どんぐりどもは口々に叫びました。
「いえいえ、だめです、なんといつたつて頭のとがつてるのがいちばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがつてゐます」
「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです」
「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ」
「さうでないよ。わたしのはうがよほど大きいと、きのふも判事さんがおつしやつたぢやないか」
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ」
「押しつこのえらいひとだよ。押しつこをしてきめるんだよ」もうみんな、がやがやがやがや言つて、なにがなんだか、まるで蜂の巣をつゝいたやうで、わけがわからなくなりました。そこでやまねこが叫びました。
「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ」
 別当がむちをひゆうぱちつとならしましたのでどんぐりどもは、やつとしづまりました。やまねこは、ぴんとひげをひねつて言ひました。
「裁判ももうけふで三日目だぞ。いゝ加減に仲なほりしたらどうだ」
すると、もうどんぐりどもが、くちぐちに云ひました。
「いいえ、だめです。なんといつたつて、頭のとがつてゐるのがいちばんえらいのです」
「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです」
「さうでないよ。大きなことだよ」がやがやがやがや、もうなにがなんだかわからなくなりました。山猫が叫びました。
「だまれ、やかましい。こゝをなんと心得る。しづまれしづまれ」別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らしました。山猫がひげをぴんとひねつて言ひました。
「裁判もけふで三日目だぞ。いゝ加減になかなほりをしたらどうだ」
「いえ、いえ、だめです。あたまのとがつたものが・・・・・」がやがやがやがや。
 山ねこが叫びました。
「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ」別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らし、どんぐりはみんなしづまりました。山猫が一郎にそつと申しました。
「このとほりです。どうしたらいゝでせう」

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

[宮沢賢治]  [童話]  [山猫]

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