番外編

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宮澤賢治作 童話集「注文の多い料理店」序

わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびらうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
 わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
 ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。

   大正12年12月20日          宮 澤 賢 治

朗読:みさきすずか

§ 当サイトは、iTunesでのビデオキャストを目的とした仕様のため、その場でみられる機動性に欠けていました。

このたび、YouTube にアップした画像を併置する処理をすませ、画質も大幅によくなりました。

ただ音質につきましては、会場内でのビデオ録画のため、あまりいい状態とはいえませんが、音声のみのポッドキャスト(すゞはらひ配信分)は別系統で録音しておりますので、もうすこし聴き取りやすいかと存じます。

音声版はこちらへ。

すゞはらひ 「どんぐりと山猫」 (オーディオのみ)

          (2010/6/15)

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馬車は草地を

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第八回(完)

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭のあたまと、どつちをおすきですか」
「黄金のどんぐりがすきです」
 山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかつたといふやうに、口早に馬車別当に云ひました。
「どんぐりを一升早くもつてこい。一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく」
 別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。
「ちやうど一升あります」山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分あくびをしながら言ひました。
「よし、はやく馬車のしたくをしろ」白い大きなきのこでこしらえた馬車が、ひつぱりだされました。そしてなんだかねずみいろの、おかしな形の馬がついてゐます。
「さあ、おうちへお送りいたしませう」山猫が言ひました。二人は馬車にのり別当は、どんぐりのますを馬車のなかに入れました。
 ひゆう、ぱちつ。
 馬車は草地をはなれました。木や藪がけむりのやうにぐらぐらゆれました。一郎は黄金のどんぐりを見、やまねこはとぼけたかほつきで、遠くをみてゐました。
 馬車が進むにしたがつて、どんぐりはだんだん光がうすくなつて、まもなく馬車がとまつたときは、あたりまへの茶いろのどんぐりに変つてゐました。そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなつて、一郎はじぶんのうちの前に、どんぐりを入れたますを持つて立つてゐました。

 それからあと、山ねこ拝といふはがきは、もうきませんでした。やつぱり、出頭すべしと書いてもいゝと言へばよかつたと、一郎はときどき思ふのです。

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このなかでいちばん

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第七回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

一郎はわらつてこたへました。
「そんなら、かう言ひわたしたらいゝでせう。このなかでいちばんばかで、めちやくちやで、まるでなつてゐないやうなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです」山猫はなるほどといふふうにうなづいて、それからいかにも気取って、繻子のきものゝの胸(えり)を開いて、黄いろの陣羽織をちよつと出してどんぐりどもに申しわたしました。
「よろしい。しづかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちやくちやで、てんでなつてゐなくて、あたまのつぶれたやうなやつが、いちばんえらいのだ」
 どんぐりは、しいんとしてしまひました。それはそれはしいんとして、堅まつてしまひました。
 そこで山猫は、黒い繻子の服をぬいで、額の汗をぬぐひながら、一郎の手をとりました。別当も大よろこびで、五六ぺん、鞭をひゆうぱちつ、ひゆうぱちつ、ひゆうひゆうぱちつと鳴らしました。やまねこが言ひました。
「どうもありがとうございました。これほどのひどい裁判を、まるで一分半でかたづけてくださいました。どうかこれからわたしの裁判所の、名誉判事になつてください。これからも、葉書が行つたら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします」
「承知しました。お礼なんかいりませんよ」
「いゝえ、お礼はどうかとつてください。わたしのじんかくにかゝはりますから。そしてこれからは、葉書にかねた一郎どのと書いて、こちらを裁判所としますが、ようございますか」
 一郎が「えゝ、かまひません」と申しますと、やまねこはまだなにか言ひたさうに、しばらくひげをひねつて、眼をぱちぱちさせてゐましたが、たうたう決心したらしく言ひ出しました。
「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付き。明日出頭すべしと書いてどうでせう」
 一郎はわらつて言ひました。
「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいゝでせう」
 山猫は、どうも言ひやうがまづかつた、いかにも残念だといふふうに、しばらくひげをひねつたまゝ、下を向いてゐましたが、やつとあきらめて言ひました。
「それでは、文句はいまゝまでのとほりにしませう。」

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

Dongri_3_3  どんぐりと山猫Ⅲ 音声版

[宮沢賢治]  [童話]  [山猫]

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裁判も今日で

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第六回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

「裁判ももう今日で三日目だぞ、いゝ加減になかなほりをしたらどうだ」山ねこが、すこし心配そうに、それでもむりに威張つて言ひますと、どんぐりどもは口々に叫びました。
「いえいえ、だめです、なんといつたつて頭のとがつてるのがいちばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがつてゐます」
「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです」
「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ」
「さうでないよ。わたしのはうがよほど大きいと、きのふも判事さんがおつしやつたぢやないか」
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ」
「押しつこのえらいひとだよ。押しつこをしてきめるんだよ」もうみんな、がやがやがやがや言つて、なにがなんだか、まるで蜂の巣をつゝいたやうで、わけがわからなくなりました。そこでやまねこが叫びました。
「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ」
 別当がむちをひゆうぱちつとならしましたのでどんぐりどもは、やつとしづまりました。やまねこは、ぴんとひげをひねつて言ひました。
「裁判ももうけふで三日目だぞ。いゝ加減に仲なほりしたらどうだ」
すると、もうどんぐりどもが、くちぐちに云ひました。
「いいえ、だめです。なんといつたつて、頭のとがつてゐるのがいちばんえらいのです」
「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです」
「さうでないよ。大きなことだよ」がやがやがやがや、もうなにがなんだかわからなくなりました。山猫が叫びました。
「だまれ、やかましい。こゝをなんと心得る。しづまれしづまれ」別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らしました。山猫がひげをぴんとひねつて言ひました。
「裁判もけふで三日目だぞ。いゝ加減になかなほりをしたらどうだ」
「いえ、いえ、だめです。あたまのとがつたものが・・・・・」がやがやがやがや。
 山ねこが叫びました。
「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ」別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らし、どんぐりはみんなしづまりました。山猫が一郎にそつと申しました。
「このとほりです。どうしたらいゝでせう」

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

[宮沢賢治]  [童話]  [山猫]

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めんだうなあらそひ

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第五回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

山猫はひげをぴんとひつぱつて、腹をつきだして言ひました。
「こんにちは、よくいらつしやいました。じつはおとゝひから、めんだうなあらそひがおこつて、ちよつと裁判にこまりましたので、あなたのお考へを、うかがひたいとおもひましたのです。まあ、ゆつくり、おやすみください。ぢき、どんぐりどもがまゐりませう。どうもまい年、この裁判でくるしみます」山ねこは、ふところから、巻煙草の箱を出して、じぶんが一本くわい、
「いかがですか」と一郎に出しました。一郎はびつくりして、
「いゝえ」と言ひましたら、山ねこはおほやうにわらつて、
「ふゝん、まだお若いから、」と言ひながら、マツチをしゆつと擦つて、わざと顔をしかめて、青いけむりをふうと吐きました。山ねこの馬車別当は、気を付けの姿勢で、しやんと立つてゐましたが、いかにも、たばこのほしいのをむりにこらえてゐるらしく、なみだをぼろぼろこぼしました。
 そのとき、一郎は、足もとでパチパチ塩のはぜるやうな、音をきゝました。びつくりして屈んで見ますと、草のなかに、あつちにもこつちにも、黄金いろの円いものが、ぴかぴかひかつてゐるのでした。よくみると、みんなそれは赤いすぼんをはいたどんぐりで、もうその数ときたら、三百でも利かないやうでした。わあわあわあわあ、みんななにか云つてゐるのです。
「あ、来たな。蟻のやうにやつてくる。おい、さあ、早くベルを鳴らせ。今日はそこが日当りがいゝから、そこのとこの草を刈れ。やまねこは巻たばこを投げすてゝ、大いそぎで馬車別当にいひつけました。馬車別当もたいへんあわてゝ、腰から大きな鎌をとりだして、ざつくざつくと、やまねこの前のとこの草を刈りました。そこへ四方の草のなかゝら、どんぐりどもが、ぎらぎらひかつて、飛び出して、わあわあわあわあ言ひました。
 馬車別当が、こんどは鈴をがらんがらんがらんがらんと振りました。音はかやの森に、がらんがらんがらんがらんとひゞき、黄金のどんぐりどもは、すこししづかになりました。見ると山ねこは、もういつか、黒い長い繻子の服を着て、勿体らしく、どんぐりどもの前にすわつてゐました。まるで奈良のだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のやうだと一郎はおもひました。別当がこんどは、皮鞭を二三べん、ひゆうぱちつ、ひゆう、ぱちつと鳴らしました。
 空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

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男は横眼で

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第四回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

するとその男は、横眼で一郎の顔を見て、口をまげてにやつとわらつて言ひました。
「山ねこさまはいますぐに、こゝに戻つてお出やるよ。おまへは一郎さんだな」
 一郎はぎよつとして、一あしうしろにさがつて、
「え、ぼく一郎です。けれども、どうしてそれを知つてますか」と言ひました。するとその奇体な男はいよいよにやにやしてしまひました。
「そんだら、はがき見だべ」
「見ました。それで来たんです」
「あのぶんしやうは、ずゐぶん下手だべ」と男は下をむいてかなしさうに言ひました。一郎はきのどくになつて、
「さあ、なかなか、ぶんしやうがうまいやうでしたよ」
と言ひますと、男はよろこんで、息をはあはあして、耳のあたりまでまつ赤になり、きものゝえりをひろげて、風をからだに入れながら、
「あの字もなかなかうまいか」ときゝました。一郎は、おもはず笑ひだしながら、へんじしました。
「うまいですね。五年生だつてあのくらゐには書けないでせう」
 すると男は、急にまたいやな顔をしました。
「五年生つていふのは、尋常五年生だべ」その声が、あんまり力なくあはれに聞えましたので、一郎はあわてゝ言ひました。
「いゝえ、大学校の五年生ですよ」
 すると、男はまたよろこんで、まるで、顔ぢう口のやうにして、にたにたにたにた笑つて叫びました。
「あのはがきはわしが書いたのだよ」一郎はおかしいのをこらえて、
「ぜんたいあなたはなにですか」とたづねますと、男は急にまじめになつて、
「わしは山ねこさまの馬車別当だよ」と言ひました。
 そのとき、風がどうと吹いてきて、草はいちめん波だち、別当は、急にていねいなおぢぎをしました。
 一郎はおかしいとおもつて、ふりかへつて見ますと、そこに山猫が、黄いろな陣羽織のやうなものを着て、緑いろの眼をまん円にして立つてゐました。やつぱり山猫の耳は、立つて尖ってゐるなと、一郎がおもひましたら、山ねこはぴよこつとおぢぎをしました。一郎もていねいに挨拶しました。
「いや、こんにちは、きのふははがきをありがたう」

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

Dongri_3_2  どんぐりと山猫Ⅱ 音声版

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そこは・・・

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第三回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

 一郎はまたすこし行きました。すると一本のくるみの木の梢を、栗鼠(りす)がぴよんととんでゐました。一郎はすぐ手まねぎをしてそれをとめて、
「おい、りす、やまねこがここを通らなかつたかい」とたづねました。するとりすは、木の上から、額に手をかざして、一郎を見ながらこたへました。
「やまねこなら、けさまだくらいうちに馬車でみなみの方へ飛んで行きましたよ」
「みなみへ行つたなんて、二とこでそんなことを言ふのはおかしいなあ。けれどもまあもすこし行つてみやう。りす、ありがたう」りすはもう居ませんでした。たゞくるみのいちばん上の枝がゆれ、となりのぶなの葉がちらつとひかつただけでした。
 一郎がすこし行きましたら、谷川にそつたみちは、もう細くなつて消えてしまひました。そして谷川の南の、まつ黒な榧の木の森の方へ、あたらしいちいさなみちがついてゐました。一郎はそのみちをのぼつて行きました。榧の枝はまつくろに重なりあつて、青ぞらは一きれも見えず、みちは大へん急な坂になりました。一郎が顔をまつかにして、汗をぽとぽとおとしながら、その坂をのぼりますと、にはかにぱつと明るくなつて、眼がちくつとしました。そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まはりは立派なオリーヴいろのかやの木のもりでかこまれてありました。
 その草地のまん中に、せいの低いおかしな形の男が、膝を曲げて手に皮鞭をもつて、だまつてこつちをみてゐたのです。
 一郎はだんだんそばへ行つて、びつくりして立ちどまつてしまひました。その男は、片眼で、見えない方の眼は、白くびくびくうごき、上着のやうな半天のやうなへんなものを着て、だいいち足が、ひどくまがつて山羊のやう、ことにそのあしさきときたら、ごはんをもるへらのかたちだつたのです。一郎は気味が悪かつたのですが、なるべく落ちついてたづねました。
「あなたは山猫をしりませんか」

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

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笛ふきの瀧

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第二回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

 一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。笛ふきの滝といふのは、まつ白な岩の崖のなかほどに、小さな穴があいてゐて、そこから水が笛のやうに鳴つて飛び出し、すぐ滝になつて、ごうごう谷におちてゐるのをいふのでした。
 一郎は滝に向いて叫びました。
「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかつたかい」滝がぴーぴー答へました。
「やまねこは、さつき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ」
「おかしいな、西ならぼくのうちの方だ。けれども、まあも少し行つてみやう。ふえふき、ありがたう」
 滝はまたもとのやうに笛を吹きつゞけました。
 一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どつてこどつてこどつてこどつてこと、変な楽隊をやつてゐました。
 一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、やまねこが、こゝを通らなかつたかい」
とききました。するときのこは
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ」とこたへました。一郎は首をひねりました。
「みなみならあつちの山のなかだ。おかしいな。まあもすこし行つてみやう。きのこ、ありがたう」
 きのこはみんないそがしさうに、どつてこどつてこと、あのへんな楽隊をつづけました。

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

  

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おかしなはがきが・・・

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宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」第一回

音楽:柳沼和子 朗読:みさきすずか

おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。

かねた一郎さま 九月十九日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
     山ねこ 拝
こんなのです。字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらゐでした。けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。はがきをそつと学校のかばんにしまつて、うちぢう飛んだりはねたりしました。
ね床にもぐつてからも、山猫のにやあとした顔や、そのめんだうだといふ裁判のけしきなどを考へて、おそくまでねむりませんでした。
けれども、一郎が眼をさましたときは、もうすつかり明るくなつてゐました。おもてにでてみると、まはりの山は、みんなたつたいまできたばかりのやうにうるうるもりあがつて、、まつ青なそらのしたにならんでゐました。一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷川に沿つたこみちを、かみの方へのぼつて行きました。
すきとほつた風がざあつと吹くと、栗の木はばらばらと実をおとしました。一郎は栗の木をみあげて、
「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかつたかい」とききました。栗の木はちよつとしづかになつて、
「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ」と答へました。
「東ならぼくのいく方だねえ、おかしいな、とにかくもつといつてみやう。栗の木ありがたう」
 栗の木はだまつてまた実をばらばらとおとしました。

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

 Dongri_3 どんぐりと山猫Ⅰ(音声版)

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モティーフ

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本編を配信するまえに、登場人物のご紹介をいたしましょう。

予告編をご覧になって、どってこどってこ♪と、

きのこのテーマと仲よくなられた方もいらっしゃるのでは?

そう、登場人物にはそれぞれ、モティーフとなる音楽があるんです。

もうひとつの物語の骨格を、どうぞ楽しんでくださいね。

こちらのサイトは、ビデオキャストでの配信をしております。左側の青とオレンジのPodfeedを、iTunes にドラッグしていただくと、自動的に次回の番組がダウンロードされるようになります。また、音声のみの配信は、すゞはらひにてする予定です。よろしくお願いいたします。

作曲者:柳沼和子 プロフィール

桐朋大学ピアノ科卒。長年、幼児音楽教育に携わる。2001年より ピアノ発表会から進化した音楽を楽しむ会「コンサート・コーモド」主宰。また、こどものためのオペラの作曲などさまざまなとりくみを続けている。

【主な発表作品】 「カイロ団長」(2005)「よだかの星」(2006)「どんぐりと山猫」(2008) (以上 宮澤賢治原作)『音楽と詩のソナタシリーズ』「あけがたにくる人よ」「古い狐の歌」「私と時計」 (2006)(以上 永瀬清子原作)「おけさ恋うた」(2007)(西岡寿美子原作) /  「ピアノ組曲 恋歌」(2008)  他

  

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どってこどってこ <予告編>

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音楽で語る童話 宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」より『きのこの行進』

Donguri250_2  音 楽:栁沼和子

 語 り:みさきすずか

・・・一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どつてこどつてこどつてこどつてこと、変な楽隊をやつてゐました。一郎はからだをかがめて、・・・(宮澤賢治原作「どんぐりと山猫」より)

底本 : 筑摩書房刊 「校本宮澤賢治全集 第11巻」

☆曲の著作権は、栁沼和子さんに帰属しています。

こちらは、シリーズ予告編になります。

「どんぐりと山猫~音楽と朗読の対話」は、 iTunes の Podcast に対応した仕様になっているため、このままではご覧いただけません。お手数ですが、番組を iTunes に登録(無料)してご覧ください。

  

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HANARE -は・な・れ-です

Photo こちらは、朗読ポッドキャスト「すゞはらひ」の動画別館です。

詩や童話の朗読を、栁沼和子さんオリジナルのピアノ曲とあわせ、コンサートでのライブ録音をお送りします。

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